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喫茶文化の紹介

正月の福茶

京都の六波羅蜜寺の年始の行事に皇服茶(おうぶくちゃ)というのがあります。結び昆布と梅干しを入れた茶を参拝者に振る舞うもので、これを飲めば無病息災といわれています。これは民間の福茶の行事と関係ありそうです。皇服茶は元来は御仏供茶(おぶくちゃ)の当て字ではないかといわれますが、もしかしたら民間の福茶に御をつけた、御福茶がもともとの言い方ではなかったかとも考えられます。

その福茶は元旦に汲んだ若水を沸かして茶を飲む習慣のことをいい、全国に見られます。たとえば、山口県の徳地町では「三朝の福茶」といって、正月三が日は茶に梅干しと砂糖を入れて飲むとされ、長崎県吉井町でも若水でたてた茶を飲み、大根・梅干し・吊るし柿・昆布などを食べるそうです。

ところがおもしろいことに、同じような福茶を節分に飲むところも各地にあるのです。静岡県袋井市では、節分の豆まき用の豆を三粒ほど茶釜に入れ、家族団欒の中で杓でこの豆をすくいあげた人が幸運に恵まれるといっています。

もともと節分は太陽の運行に基づいた年中行事で、その翌日が立春です。つまりこの日を境に冬が終わり春になるという大きな節目にあたります。そして今の暦に比べてほぼ一カ月遅れの旧暦の正月はたいてい節分の近くになりましたから、昔の暦では節分の翌日が文字どおりの初春でした。福茶が正月や節分の行事であるということは、お茶が日常の飲み物として一年間つねに身近にあるものなので、新年の最初の一杯にはとくに心したからではないでしょうか。

(中村 羊一郎)

皇服茶

皇服茶(六波羅蜜寺)

参考文献および写真提供:旧金谷町お茶の郷博物館