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喫茶文化の紹介

「ちゃっきりぶし」は時代の子

静岡茶を代表する歌は、「ちゃっきりぶし」。ちゃっきり、ちゃっきり、ちゃっきりよ、という軽快な囃子ことばは、チャッキリ○○というように、いたるところで静岡県の象徴のように使われています。この歌はかすりの着物に赤いたすきの茶摘み娘が踊るように振り付けられていますから、伝統的な茶摘み風景を歌ったものと思われがちです。でもその所作をよくみると、お茶を摘む手つきではありません。両手を前にだして大きな鋏を使う様子を表していることに気がつきます。

「ちゃっきりぶし」は、昭和2年に完成した日本におけるPRソングのはしり、ともいえます。というのは、そのころ、静岡と清水の中間に大きな遊園地を造った静岡電鉄(現在の静岡鉄道)が、北原白秋に依頼してその宣伝用に歌詞を作ってもらったものだからです。白秋は静岡周辺の方言や伝説を参考にして作詞したのですが、まさにその頃、静岡の茶畑では、従来の手摘みにかわって、効率のよい鋏の使用が増えていました。故郷の九州ではあまり見ることのなかった茶鋏に興味を抱いた白秋が、早速にその様子を織り込んだものと思われます。

また、作曲者は民謡研究家としても有名だった町田佳声(嘉章)ですが、彼は、この歌をお座敷の歌として作ったと語っています。

「ちゃっきりぶし」は、まさに時代の子でした。茶業界における手摘みから鋏刈りへの転換、また民謡が土から切り離されてお座敷の芸に変容していくこの二つを「ちゃっきりぶし」は見事に象徴しています。

(中村 羊一郎 )