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喫茶文化の紹介

八十八夜のお茶

立春から数えて八十八日目を八十八夜といい、現在の暦でいうと5月2日ころにあたります。野や山で新しい生命がいっせいに活動を始めるこの時期、茶の木にも、まだ小さいながら新芽が伸びだしています。その芽を摘んで、鍋などで炒ったお茶を、たとえわずかでもだして飲むと、中気にならないという信仰が全国で聞かれます。
長崎県の早岐(はいき)という町には、「茶市風に吹かれると病気にならない」という言葉があります。ここでは毎年五月の日曜日に、茶市が開かれ、昔は集まってきた人々が物々交換で欲しいものを手に入れたそうです。とくに周辺の島の住民にとって大切な市でした。九州でも有名な茶の産地である嬉野が近くにあって、できたばかりの新茶が運び込まれたのが茶市という呼び名の起こりです。
ということは、集まってくる商品のなかでとくにお茶が注目されたからですが、その理由は、まさに八十八夜を過ぎて、新茶が出回るようになったこの時期、新しい季節の生命力にあふれたお茶を飲むとによってそのエネルギーを体内に取り込み、一年間の無病息災を祈る、という気持ちがあるからでしょう。
なお、一番茶の収穫直前に霜がおりるとせっかくの茶の新芽が凍ってしまい大変な損害になります。そこでこの時期、皆が集って霜がないよう神様にお祈りする所が茶産地の静岡県にあります。商品としての茶の生産農家と、それを購入する人々。八十八夜に対する接し方もさまざまです。

(中村 羊一郎)

お茶の花

お茶の花

新芽

新芽

早岐の茶市

早岐の茶市(長崎県早岐市)

(参考文献および写真提供:旧金谷町お茶の郷博物館)