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喫茶文化の紹介

振り茶

振り茶とは聞き慣れない言葉ですが、自家製の番茶を手製の茶筅で泡立てる茶のことをいいます。振る、というのは茶筅でかき混ぜることです。だから、これは高価な抹茶を入手出来ない人が代用品としての番茶を使って抹茶の作法を楽しんだもののようにも考えられます。しかし、これは抹茶とは起源を異にする番茶独特の習俗です。
あの『雨月物語』の作者として有名な上田秋成は、煎茶に非常な関心をもっており、ある本に、振り茶は昔は各地で普通に行われていたという意味のことを書いています。
たしかに今でも振り茶は全国に点々と分布していますが、山間部などの古い習俗が伝えられているところが大部分です。たとえば愛知県の奥三河地方ではこれを桶茶と呼んでいます。煮出した番茶を茶桶にくみ取り、塩を少し入れ、桶を左手でかかえるように持ち、右手の茶筅で手早くかきまぜて泡たてます。すると細かい泡で桶がいっぱいになるので、これを茶碗にくみ出し、香煎などを食べながら飲んだものでした。出雲のボテボテ茶も振り茶の一種で、泡立てた茶にいろんな具をいれて食べます。つまり、振り茶は単純な飲物というよりも、茶をベースにした一種の食べ物、ということが分かります。
そういえば、静岡市の郊外には明治時代まで、嫁さんを貰うと、隣家から、茶振りをもらっておめでとう、といわれたそうです。振り茶を作ることが、食物を作ることと同じような意味に考えられていたことを表すわけですから、振り茶という珍しい習慣は、じつは茶の多様な利用法を具体的に物語る貴重な資料ということになります。

(中村 羊一郎)

ブクブク茶

ブクブク茶(沖縄県那覇市)

ボテボテ茶

ボテボテ茶(島根県)

バタバタ茶

バタバタ茶(富山県朝日町)

ボテ茶

ボテ茶(香川県)

バタバタ茶と茶筅

バタバタ茶と茶筅(富山県下新川郡朝日町蛭谷)

参考文献および写真提供:旧金谷町お茶の郷博物館