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抗突然変異作用

生物の生物たる所以はたった四種類の核酸という化合物の組み合わせ(DNA)に書き込んだ遺伝情報を親子代々受け継ぐことにあります。核酸は,カツオ出汁のうまみ成分であるイノシン酸と同じ仲間の有機化合物で,様々な化学物質や,光,紫外線などの物理的因子の浸襲を受けると,構造の一部が思っているよりも簡単に変化してしまいます。形が変わることは遺伝情報の変化へと結びつきます。これがいわゆる突然変異といわれるもので,生物にとってゆゆしき事態となるので,そうならないように変異を修復する仕掛けを生物は備えています。ともあれ,DNAの損傷と修復が日常茶飯事として起こっており,時には修繕し損なうことや,損傷の程度が大きいと修繕しきれないことになります。

DNAの損傷が体細胞に起こった場合,発がんの出発点となることは良く知られていますが,がんだけでなく様々な疾病の誘因となります。老化もその一つであると考えられています。DNAの損傷が生殖細胞に起こった場合は子にその影響が現れるいわゆる遺伝病となります。がんにも,率は少ないけれども「遺伝するがん」があり,「家族性大腸がん」は有名です。このように突然変異を抑えること(抗突然変異作用)は人にとって,諸悪の根源を絶つことに等しいものです。

茶葉抽出物やその主成分である緑茶カテキンの(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)が突然変異を抑制するという約20年前の賀田恒夫博士(国立遺伝学研究所)の発見が発端となり,日本が世界をリードする抗突然変異研究へと開花しました。茶成分の抗突然変異研究は1980年代に入って多数報告されました。「茶の科学」131-144頁(中村,富田,1991年,朝倉書店)やMutation Research, 436巻,69-97頁(Kuroda, Y & Hara, Y, 1999年)に詳しくまとめられています。

緑茶カテキンは主に次の三つの様式で突然変異を抑制します。トリプ-P-2やジニトロピレンの場合,その活性型と直接反応して,変異原とDNAとの反応を抑えます。緑茶カテキンは薬物代謝酵素の解毒酵素系(第II相)の誘導効果を示し,結果的に,化学発がんの抑制作用を示します。紫外線による突然変異の場合,DNAの傷に対して生体が備え持っている損傷修復系の働きを活発にしたり,修復系が働く時間を長くしたりして,突然変異を抑えます。このほか,N‐ニトロソアミンの生成に際しては,緑茶カテキンが亜硝酸と優先的に反応して,第二級アミンとの反応を抑えます。緑茶に比較的多量に含まれているビタミンCにも同様な働きがあり,発がん性のニトロソアミンの生成を抑制する食品成分として重要です。緑茶カテキンにはまた,活性酸素やフリーラジカル(生体内で異常発生した場合,様々な疾病を誘発する)を消去する力(抗酸化性)が強く,DNAの酸化傷害の結果生ずる 8-OHdG (8-ヒドロキシデオキシグアノシン)の生成を抑えることにより突然変異を下げることも知られています。

これらの効果を期待してお茶を飲む場合,量だけでなく飲むタイミングも重要です。静岡県人は食事の際,食後だけでなく,食事前にまず1杯,そして食べている最中にもお茶をよく飲みます。他県の出身者には不思議なことらしいですが,これが,非常に素晴らしいことであることを示唆するデータ(図I)を示します。また,茶の種類と効き目の違いを示すデータ(図II)も示します。(中村:フレグランスジャーナル,2000年,4月号,66~73頁)

(中村 好志)

上:MNNG変異活性の抑制/下:抗変異・抗プロモーション活性の比較 (画像をクリックしてください)