ホーム > おしえてTea Cha! > 茶の効能 > がん予防効果

ここから本文です。

がん予防効果

お茶のがん予防に関する学問的な解明が始まって約20年が経ちます。今,緑茶抽出物と緑茶カテキンはがん予防の可能性をもつ最も重要な食品機能性成分として世界的な注目を集め,精力的な研究が続いています。

がん予防に対する有効性は,緑茶飲用量とがん発症又は死亡率の低下との相関性を示す疫学データ,それを裏付ける実験データ,そして最後に,ヒトへの介入試験又は臨床試験による有効性の確認という三つのハードルを越えて,はじめて学問的に認知されます。現在,研究は三つ目の真っ只中にあります。

疫学的研究。静岡県(小國ら,静岡県立大学)北九州地区(古野)における緑茶飲用回数と胃がん死亡率に相関性を認めた報告があります。米国国立がん研究所(1994年)は中国・上海市の調査から,緑茶を飲む習慣と食道がん発症抑制の相関を確認しています。しかし,他の臓器も含めて茶の飲用ががんの発症予防に有益であることを示す報告事例は必ずしも十分ではありません。(表1)紅茶にいたってはがん予防との相関を示すデータはないと言って良いでしょう。

実験的には,動物,試験管内いずれの系でも緑茶抽出物やカテキンの発がん抑制作用を支持する膨大なデータが蓄積されてきました。(表2)しかし,動物発がん試験の中には,用量-効果依存性が乏しく,むしろ,低用量において抑制作用が強い報告もあります。名市大グループの多臓器中期発がんモデルにおいては,緑茶カテキンの有効性は必ずしも一様でないことが報告されており,問題点を残しています。

緑茶のがん予防のメカニズムを整理すると,1.突然変異(発がん開始:イニシエーション)の抑制,2.発がん促進(プロモーション)の抑制,3.悪性腫瘍化(プログレッション)の抑制,4.がん細胞の特異的増殖抑制(選択的細胞増殖抑制やアポトーシス誘導),5.がん細胞の転移抑制,の各ポイントでカテキンが有効であることを示す試験管内や動物の実験的データが数多くあります。このように多面的な抑制作用を示す食品成分はほかにはなく,分子,遺伝子レベルの作用機序解明が続けられています。

緑茶カテキンの動物や人での吸収,代謝,排泄は,まだ十分なデータは得られていません。数%が吸収され大半が糞中に排泄されるといいますが,更なる解析が必要です。

一日,湯呑み茶碗10杯の煎茶を飲む人の緑茶カテキン摂取量はおよそ0.6~1.2g/人/日で,番茶ではこれより少なめ,缶ドリンクのカテキン量は通常,リ-フティ-の1/2~2/3です。緑茶カテキンの発がん抑制有効量は疫学デ-タから20mg/kg体重/日,動物実験から10mg/kg体重/日で,臨床応用には20mg/kg体重/日が用いられています。体重50~60kgの日本人の場合,1日あたりの量は1.0~1.2 gです。鮨屋の上がりに出てくる大きな湯飲みのお茶(粉茶)なら3杯分というところです。

ヒトでの介入試験で,埼玉県がんセンターの中地らはコホート研究から,1日10杯以上のお茶を飲んでいたがん患者で発症遅延効果を,1日5杯以上飲んでいる乳がん患者では再発率が低下する予後の改善効果を認めています。また,緑茶カテキンおよび緑茶抽出物のがん予防薬としてのヒト臨床応用試験が1997年9月から米国で進められています。日本の企業研究所と米国の国立がん研究所,或いは,テキサス大MDアンダ-ソンがんセンタ-との二つの共同研究です。いずれも第二相試験に入ったことが2000年の夏に報道されています。

近い将来,お茶や緑茶カテキンが一般健常者のがん予防食事メニューに加えられ,がんの高危険者グループに対しては予防薬となる日が来るかもしれません。

(中村 好志)

上:茶の飲用とがんの関係/下:緑茶カテキン及び緑茶抽出物の発がん抑制作用 (画像をクリックしてください)