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仏教と茶

お茶はその伝来の経緯や、お茶のもつ効能の特性などから、仏教と深く結びついた飲み物として今日に至っています。

平安時代はじめ日本に最初にお茶をもたらしたのは中国唐に渡って様々な文物を学んで帰国した永忠(743~816)や最澄(767~822)、空海(774~835)ら留学僧でした。彼らは蒸して搗き固めた餅茶の喫茶法をもたらし、寺院や宮廷で飲まれるようになりました。また、抹茶の喫茶法を日本に紹介した栄西(1141~1215)も、宋に渡って臨済禅を学んで帰国した留学僧でした。茶はその効能から眠気を覚まし瞑想の助けとなる禅宗の修行の薬として用いられ、栄西はその功徳を説いた『喫茶養生記』を著しました。また茶は禅宗寺院の僧侶の生活規範を示した「永平清規」にも茶礼として規定されるなど、寺院なかに深く根を下ろした飲み物となりました。

やがてさまざまな薬効のあるお茶はその後、寺院の門前などで参詣に訪れる人々に売られるようになり、施薬の茶として人々に普及していきました。

さらに戦国時代、茶は禅の思想と深く結びついた侘び茶のスタイルが形成されるようになり、茶頭と呼ばれる人々は多く禅宗に帰依し、法名を名乗るなど世俗を離れた存在でした。

そして江戸時代、日本に来朝した隠元禅師(1592~1673)は黄檗宗を広めるとともに明の喫茶法である葉茶の飲用法をもたらし煎茶の祖として仰がれるようになりました。

このほか民間では仏前に茶湯とよばれるお茶が供えられたり、仏事の返礼としてお茶が用いられるなど、仏教儀礼の中にお茶は深く根付いています。

(望月 伸嘉)

上/皇服茶(六波羅蜜寺) 下/茶湯(仏前に供えるお茶)