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喫茶文化の紹介

茶色の理由

日本人は、色を表現するときに、自然に存在する物の色にたとえて、何々色と言いました。たとえば、桃色、草色、小豆色、空色、灰色。それに対して、黄色、赤色、緑色などは、中国語としての漢字が意味する色のイメージをそのまま使っています。だから、緑といっても緑という物があるわけではありません。

では、茶色の起源はどこにあるのでしょうか。私たちがふだん目にする茶の葉は緑色ですし、急須でだしたお茶も美しく澄んだ緑色をしています。なぜ英語のブラウンに相当する色を茶色というのか、不思議に思いませんか。

その答えは意外に簡単です。お勝手にある使い古した布巾(ふきん)を見てください。お茶が染み混んだ布の色、そうです。それが茶色なのです。

それともうひとつ、案外知られていないのは、緑色と煎茶が結びついたのはかなり新しい時代だったということです。それまで一般庶民が飲んだお茶は、いわゆる番茶であって、摘んだ葉を直接釜か鍋で炒ってからムシロの上で揉み、天日で干すというものがほとんどでした。出来上がったお茶は黒色に近く、煮だしたり、熱湯を注いでだしたときの色は、赤色や黄色をしていて決して緑色ではありませんでした。したがって、それまでは茶葉の色も、茶碗にだしたお茶の色も緑色とはほど遠いものでした。

現在のような、生葉を蒸してから焙炉の上で丁寧に揉みながら乾燥させる新しい方法が完成したのは江戸時代の中頃です。緑色が茶畑や茶碗につがれたお茶のイメージとなったのは、じつは茶色の概念が出来上がってからのことだったのです。

(中村 羊一郎 )