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お茶の垣根

静岡とか鹿児島のようなお茶の大産地にいくと、一面見渡す限りの茶畑に圧倒されますが、そのような産地でなくても、お茶の木はあちこちに見られます。関東地方では、よくクネッチャという言葉を聞きますが、クネというのは垣根という意味。隣り合った畑や道路との境界に一列に植えられた茶の木をさします。茶の木が垣根の役割を果たしているのです。

茶樹は、常緑樹で冬でも葉が落ちませんから、境の目印には絶好です。それにとくに種から育てたものは根がまっすぐ、しかも深く伸びていきますから引き抜きにくい、これも垣根にふさわしい条件です。もちろん飲むためのお茶をつくることもできます。

もともとお茶の木が自生していなかったはずの関東地方北部でも、江戸時代のかなり早い時期から茶が栽培されている記録があり、たとえば「茶畑 五間(けん)」というような記載のある帳面が残っています。茶畑の大きさが間(約1.8m)という、昔の長さの位で表現されているのは何故でしょうか。それは茶畑が直線できていたからで、おそらく、麦や豆などを作る畑や屋敷の境を表していたのでしょう。でも、そこの殿様はこんな茶畑にもちゃんと税をかけていました。

また、西日本にはガケ茶、といういいかたもあります。これは、斜面をならして畑をつくったとき、下の段との境目が崖のようになる、そこに植えた茶のことです。ここでは茶がしっかり根をはることで耕地が流れたり崩れたりするの防ぐ役割を果たしました。茶は木そのものとしてもなかなか利用価値が高いものでした。

(中村 羊一郎)

茶の垣根